”ほめる”と聞くと、いいイメージをもつ人が多いかもしれないが、僕はそうは思わない。褒めるのは”いいこと”、”褒められて悪い気がする人なんていない”というセリフを聞いたりするが、それは立場にもよって異なるし、思ってもないことを言われると逆に不快になることすらあるからだ。
とは言っても、やはり”褒める”という行為は、人間関係を円滑にするために有効な手段であるため、適切に用いれば大いに効果を発揮する。ではどうすればいいのか?と考えると、、”なぜ褒めるか?”それを考えることがまずは重要だと思う。しかし、そのためにはまず、”褒めるとはどういうことなのか?”これを第一に考えねばならない。
目次
褒めるとは
人を効果的に褒めるためには、まずその意味を理解しなければならない。
言語上の”褒める”
褒めるという言葉を辞書で調べると次のように定義されています。
①高く評価していると,口に出して言う。たたえる。 「よく頑張ったと-・められる」 「上手な字だとみんなが-・める」
②祝う。祝福する。 「真木柱-・めて造れる殿のごといませ母刀自面(おめ)変はりせず/万葉集 4342」 〔「ほめる」という動詞は,目上の人に対しては用いることができない。それに対して「たたえる」は文章語的で,ある人が社会的に見て好ましいことをした場合に,目上にも目下にも使えるが,自分の家庭内の人には使いにくい〕
引用:webilio辞書より
この定義から言えるのは、どうやら褒めるという行為は、”評価する”ことであり、それゆえに、目上の人に対しては本来使うべきものではないということになりそうだ。
心理学上の”褒める”
続いては、心理学的な観点から”褒める”という行為を考えてみたいのだが、ある文献では次のように述べられている。
この領域の実験において、言語的報酬は、ほめの受け手のやる気の促進やパフォーマンス向上を期待して用いられることが多く、内発的動機付けとの関連性を検証する研究が散見される(高崎, 2013)。
引用:効果的に褒めるには?:ほめと共同作業が内発的動機に与える影響
簡単に言ってしまえば、”ご褒美”として”褒める”のである。心理学的にこれを説明すると、オペラント条件付けと言うのだが、この用語について興味がある方は、下記の記事を参考にして頂きたい。
この様に、心理学的に”褒める”ということを捉える場合、行動の方向づけとしての機能色が強いのである。
教育学上の”褒める”
一方で、教育学の観点から”褒める”という行為を捉えると、以下の様な定義があるらしい。
教育学領域における「ほめ」が、ポライ トネスを基盤としたものであることに起因すると考えられる。ポライトネスとは、「円滑な人間関係の確立・維持のための言語行動」と定義されており(宇佐美,2003)、さらにネガティブ・ポライトネス(自己防衛のための間接的表現;e.g.謝る)とポジティブ・ポライトネス(他者開示のための直接的表現; e.g.ほめ)の2つに分けられる(Brown & Levinson, 1987)。ほめは、相手の価値観が自分の価値観と同じことであることに基づく共感の表現であり(滝浦,2008)、ポジティブ・ポライトネスに該当すると考えられている。また、小玉(1993)では、Holmes(1988)の考えを基盤として、ほめを「話し手と聞き手の双方が価値を認めるなにか(例えば、持ち物、性格、技術など)を自発的に見つけ出し、それに対して明示的あるいは暗示的に「良い」と認める行為」と定義づけている。
引用:効果的に褒めるには?:ほめと共同作業が内発的動機に与える影響
この定義から、教育学的な”ほめ”には、”共感”ないし”同感”を示す手段として用いられている様だ。共感と同感についても別に記事を書いているので、興味がある方はそちらを参考にしてほしい。
褒めの機能的分類
続いては、心理学的な観点から、Brophyという人物が行った8つの分類について紹介したい。
驚き・賞賛の自然な表出としての褒め
この種別の褒めは、生徒の回答が優れていた時などに示す自然な反応のことと言う風に述べられているが、例えば、料理の下手な彼女の料理が予想外に美味かった時に、”美味い”と表現することがこの褒めに該当するのだろう。それが驚きだからだ。
批判とのつりあいを取る・予想や期待の立証をするための褒め
教師が生徒の努力不足など批判をしたあとで、成績がよくなった時に用いられる褒め方とあるのだが、フォローするという表現がこの”褒め”に該当すると考えられる。
代理強化のための褒め
望ましい行動をした生徒以外の行動を変化させ、コントロールするために使われる褒めがこれ。つまり、あなたが管理職だとし、仕事に不真面目なAさんの働きぶりを変容するために、Bさんの熱心さをAさんの前で、”Bさんはいつも朝早くから営業の準備をしてて偉いね”などがそれである。
ポジティブなガイダンス・批判を回避するための褒め
褒めることによって生徒の行動を強化することは不可能であると理解しているが、小言や批判を避けたいと考えている教師によって使われる”ほめ”の1つ。特定の生徒の行動や、それ以外の生徒の行動を強化することを目的としていない点で、”代理強化の褒め”とは異なるようだ。
和解のための褒め
破壊的な行動をする生徒や、コミュニケーションの取れてない生徒に対して用いられる”ほめ”のこと。特に、このタイプの”ほめ”が破壊的な行動をする生徒に与えられた時、それは彼らが許されたことを間接的に伝えることになるという。
生徒が教師から引き出すストロークとしての褒め
学業成績をよく賞賛されている生徒たちが、教師から引き出す”ほめ”のこと。彼らは、普段は快活で外向的であるが、提出する宿題に自身がない時には、教師にポジティブな反応をしてほしいことを、明に暗に示しながら教師とのコミュニケーションを取る。このような場面に置いて、教師が子供に対してする反応がこの機能をもつほめである。
転換期の儀式としての褒め
取り組んでいた活動を終了し、次の活動に写ろうとするときの褒め。ここでの褒めは生徒の出来栄えに注目したものではない。
なぐさめ、励ましとしての褒め
進度が遅く、依存的な生徒に対して教師が行う褒めのことである。このような褒めは教師は辛抱強く、助け、守ってくれる人であることを生徒に示すために用いられる。