ロジャーズにより考案された来談者中心療法についてまとめてます。
来談者中心療法は、行動主義、精神分析に対する第三の潮流として位置付けられた、”人間性心理学”の考えに基づいて発展した心理療法のことです。これは、クライエントの主体的な判断と決定を尊重する現象学的・実存的なアプローチであり、それこそが人間性心理学との関連部分である。
目次
来談者中心療法(Client Centered Therapy)
来談者中心療法(クライエント中心療法)とは、ロジャースが提唱した非指示的な心理療法のことで、人は誰もが自己概念と経験を一致させていこうとする自己実現傾向を持っており、カウンセラーとの適切な関係があれば、自己概念と経験を一致させ、自己実現を発揮することができると考える心理療法です。あいづち、おうむ返し、要約を主な技法とします。
※太字の部分に関しては、以下に補足あり
自己概念・経験(有機体)・自己一致
まず、自己概念とは、自身が抱く自己像のこと。「私は、親切な人間だ」とか、あるいは、「良い人でありたい」といった、”理想像”と言い換えてもよい。次に、経験(有機体)とは、自身が実際にした体験のこと。すなわち”実際の自己”だと言える。最後に、自己一致とは、自己概念と経験の重なり部分のことで、重なった領域が大きいほど、適応的であると言える。逆に、不適応状態のクライエントは、この重なり部分が小さいと言える。
この説明をベン図で表すと以下のようになる。
方向性としては、自己概念を経験(有機体)に近づけることで、自己一致領域の拡大を目指す。故に、クライエント中心療法を施す前後では、以下のように自己一致領域が変化するということになる。
自己実現傾向
自己実現傾向とは、不適応状態にある人も、自己概念と経験を一致させようとすることを意味し、この実現傾向は、適切な態度を揃えたカウンセラーと関係を築くことで実現可能だと言われる。
関係を築くためのカウンセラーの適切な態度
カウンセラーがクライエントと適切な関係を築くためには、共感的理解、無条件の肯定的配慮、自己一致の3つが必要と言われる。
共感的理解(empathy understanding)
共感的理解とは、クライエントの内的世界を、あたかもクライエント自身であるかのように感じること。
無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)
無条件の肯定的配慮とは、クライエントのどのような側面にも偏りなく、肯定的かつ積極的な関心を向けること。
自己受容
自己受容とは、ありのままの自己と自身の問題を受け入れること。
ロジャーズの自己理論
以上が、来談者中心療法の概要ですが、ロジャーズは、自己理論の前提として、人間は自己の成長と自己実現に向かう力を内在している存在とし、人間への信頼を強調しています。そして当初から、クライエントの自分自身についての認識の仕方に注目していました。その認識の仕方は、客観的な外在する世界にではなく、その人の行動は、その人を取り巻く世界からの刺激によって直接的に引き起こされるのではなく、その人がその世界をどのように知覚しているかということだとし、そこで、その人の行動やその意味に接近しようとするとき、外的な要因から探求するだけでなく、その人の知覚の世界から理解しようとすることの重要性を唱えました。
この太字の部分を図示すると以下のようになります。
来談者中心療法はどのように発展したか
年号 | 発達段階 | 呼称 | 特徴 |
---|---|---|---|
1940-1950年 | 第1段階 | 非指示的療法 | ・”患者”にかわって”クライエント”という言葉が初めて使われた ・許容的な関係づくり、感情の理解、現在の重視、非指示的であるという点が重視された |
1950年代 | 第2段階 | 来談者中心療法 (CCT) | ・技法よりもカウンセラーの態度が重視された。 |
1958-1960年代 | 第3段階 | フォーカシング | ・”体験過程”という概念が臨床場面かの洞察から生まれた時期で、ロジャーズの学生だったジェンドリンと研究に取り組んだ。この時期には、統合失調症の患者にもCCTを用いて仮説検証に取り組んでいる。 |
1960-1987 | 第4段階 | パーソンセンタード アプローチ | ・CCTの基本仮説を”エンカウンターグループ”は広げた。家庭生活、教育と学習、集団のリーダーシップ、集団葛藤などの領域にも応用した。人種的・宗教的な葛藤のある人たちを集めたワークショップをを世界各地で開催し、国際的緊張の緩和にも貢献した。 |
パーソンセンタードセラピーと来談者中心療法の違い
以上の沿革をみると、両者には対象者の範囲に違いがあると考えられます。というのも、パーソンセンタードセラピー(Person Centerd Therapy※以下PCT)は、この来談者中心療法(クライエント中心療法/Client Cetnerd Therapy※以下CCT)に基づいて発展してきました。そして、”家庭生活、教育と学習、集団のリーダーシップ、集団葛藤などの領域にも応用した”ことから、臨床場面から抜け出して、心理療法が必要とされない人々に対しても、用いることができる概念だということがわかります。
具体的なやり方
最後に、この来談者中心療法(クライエント中心療法)の技術的な部分を簡単に解説しておくが、すでに述べたとおり、クライエントの話を①自己概念、②経験(有機体)、③その他(事実etc)に分解するアプローチがその根幹である。次のようなやり取りを考えてみる。
これから飲みに行こうよ!
いいよ!(本当は嫌だけど)
このような社交辞令的に承諾してしまう経験を、誰しも一度はしたことがあるのではないだろうか?この例で言えば、「いいよ!」と返答した社交辞令的な自分が、つまり、”いい人でなければいけない”とか、”嫌われたくない”という自己概念にあたる。一方、本心は「本当は嫌だけど」とありこれが経験(有機体)にあたる。本当は嫌なのにも関わらず、「いいよ」と返答するということは、自己概念と経験(有機体)が不一致な状態にあるということだ。だからこそ、そこには葛藤が起きるのだと考えられる。